芝居帰りに一晩中オトカに化かされる
どんな伝承か
明治三十五年生まれの柴崎某が十八歳のころ、地芝居が盛んだった中村へ手伝いに行った。三晩続いた芝居の打ち上げの夜、酒をふるまわれ、子どもへのみやげにイカを提げて夜道を帰った。八幡様の入口で転んだことまでは覚えているが、いくら歩いても家に行き着かない。夜通し歩き続け、明るくなって見回すと五反田が見えた。秋のことで、体じゅうが萱で引っかき傷だらけになり、ヤマジラミの実がびっしり付いていた。イカは食べられてしまっていた。オトカ(狐)に化かされたのだという。
原典より
一晩中歩いて、明かるくなって見たら五反田が見えた。—— 千代田村の民俗――伝説・世間話(群馬県民俗調査報告書 第14集・群馬県民俗調査報告書) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
千代田村の民俗――伝説・世間話(群馬県民俗調査報告書 第14集・群馬県民俗調査報告書)
『千代田村の民俗――伝説・世間話』は、利根川沿いの千代田村で行われた民俗調査の報告から、言語伝承の章を中心に抜き出したテキストである。赤岩・舞木・瀬戸井・福島などで聞いた長良神社や光恩寺、片目の白蛇、カクレザト、河童の伝説と、オトカ(狐)に化かされた話、大食・大力・変わり者の世間話、諺や洒落を、採集した集落名を括弧で添えて短く記す。冒頭には正月の松飾りと大晦日の行事の記事が、途中の文から始まる形で残る。