無賃を断られた托鉢僧と動かぬ汽車
どんな伝承か
大正の初め、山陽本線の下松駅に上り列車が入ったとき、六十近い乞食姿の托鉢僧が駅員に近づき、次の虹ヶ浜まで無賃で乗せてほしいと頼んだ。駅員はにべもなく断る。僧が仏の道を広める身だからと重ねて願うと、駅員はかっとなって強くはねつけた。僧は、それなら歩くが、今この汽車は動かさぬぞと言い置いて去っていった。やがて発車の刻限が来ても、列車は少しも動かない。機関を調べても車輌を見ても故障は見つからず、大騒ぎになった。駅員が僧を追いかけて詫びると、僧は納得し、まもなく汽車は動き出したという。
原典より
大正の初年のこと、或る日山陽本線の周防の下松驛に、上り列車が到着をしたとき、六十近くの乞食姿の一人の托鉢僧が來て、驛員に對ひ、次の虹ヶ濱まで無賃乗車させてくれよと依頼をしたけれど、驛員が素氣もなく拒絶をした。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。