来民町の呼びかける怪木
どんな伝承か
井上円了が聞いた実例。熊本県の来民町に、夜分になると呻きだす怪木があると評判で、木を見に行ったが、どこにも洞穴がなかった。数間高い所の大枝の分かれ目に朽穴があり、そこに鳥が巣を作っているのだろうと判断したという。人によっては、その木が「オーイオーイ」と声をかけてくるように聞こえ、妖怪だと思って逃げ出すことが毎夜続いた。だが正体は、近所に住む物好きな者の仕業であった。木の根元より四、五尺高い所に口を開けた洞に毎夜隠れ、通行人の足音がするたび「オーイ」と呼びかけて驚かしていた。ある夜、洞で眠り込んで夜明けを迎え、煙草を吸っていると、木から上る煙を見た神社の下男が水を注ぎ込み、飛び出したところで正体が発覚した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。