眠った下女が書いた沼津の酒の売上
どんな伝承か
先年、静岡市に桑原俊郎という催眠術の名手がいて、十三歳の下女を眠らせて透視の試験をし、さまざまな好成績を上げた。ある夜、近所の酒造家前田が訪ねて来たので、沼津にある前田の支店でその月に入ってから酒が卸でどれだけ売れたかを透視させた。下女は初め、支配人が東京へ行って不在で分からないと答えたが、もう一度見て来いと命じると、分かりました、巻紙と筆をくださいと言い、眠ったまま「樽で二十六本売りました」と書いた。一同は半信半疑だったが、前田がその夜支店に問い合わせると、翌日、まだ調べたことはなかったが調べてみるとまさしく二十六本だったという返事が届いたという。
原典より
スルト、「分かりました巻紙と筆とを下さい書きます」と言つたので、それを與へると、催眠のまま『樽で二十六本売りました』と書いた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。