炎を吐いて飛ぶ鬼面の化け火
どんな伝承か
大和郡山藩の家老柳沢洪園の茶園が郡山の西の池城村にあり、園丁の弥二兵衛という六十ほどの律儀な農夫が世話をしていた。五月のある夜、主家から帰る途中、川を渡りかけると、遠く南西の金剛山のふもとのほうに一つの火が現れ、ぶうんと凧のうなりのような音を立ててすさまじい速さで飛んで来た。見ると絵の鬼の面そのままで、上下の牙が食い違い、黒い長髪を地に引き、口から炎を吐いていた。化け火に会ったら伏せよという古老の言葉を思い出して堤の下に伏せると、火は頭上すれすれを過ぎて北へ飛び去ったという。
原典より
よく見ると繪に描いた鬼面の通りのもので、上下の牙生へ違ひ、髪黒くて長く垂れて地を曳くばかり、口からは火焔を吐いて凄まじい態である。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。