役人の宿の庭に巨石が落ちた鰐淵寺
どんな伝承か
明治四年ごろ、松江県の最初の社寺係として出雲国内の神社仏閣の御神体を調べて回った山本淡蔵ら二人の役人は、最後に神門郡鰐淵村の鰐淵寺を訪ね、松本坊に泊まった。夕暮れに奥書院で和尚と酒を酌み交わしていると、にわかに嵐となって山全体が鳴動し、三尺近い大石が空から庭の真ん中に落ちてきた。仰天する役人たちに、和尚は笑って小声で天狗だと告げた。この山には昔から天狗がいて、気に入らない者が泊まると必ず山が荒れるという。明治の初めには、縁日に泊まった松江藩士綿貫某の弁当に魚が入っていたため山が荒れ、寺男がそれを谷川の下流へ捨てると静まったこともあった。
原典より
鰐淵寺の山には、古来から天狗が居つて、氣に喰はない人間が、山で一泊をすると必らず、山荒れが起こるとのことであつた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。