岩松採りの縄を焼いた立久恵の天狗
どんな伝承か
出雲第一の名勝とされる立久恵は、数十丈の奇岩が渓流沿いに七、八町も並び、岩山の間に薬師堂があって、昔から天狗の出る所とされていた。あるとき大胆な男が、岩肌に生える見事な岩松を採ろうと長い縄にぶら下がって崖を下りると、絶壁の中ほどから見慣れない者が現れ、縄を焼こうか切ろうかと叫んだ。火の気もないのに縄の端が燃え出し、男は必死に縄をたぐって逃げ帰った。この噂で一人で参る者はいなくなったが、知らずに一人で参詣した著者の家の下僕滝蔵は、背が高く逞しい体つきだったため、下山の途中で出会った参詣者たちに天狗ではないかと恐れられたという。
原典より
或る大胆な男が、此の山の奇巖の腹に、美しい枝振の岩松が澤山生へてゐるのを探る爲めに、十數丈の縄にブラ下つて崖へ下りたところ、…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。