掛け声とともに消えた沖の船
どんな伝承か
大正のころ、積丹半島の突端の漁村での話である。漁船が沈んで男たちが何人か死んだ。その遭難の時刻に、死んだ本人が自分の家の台所に現れ、柄杓で水を飲むと黙って出て行くのを見た者がいたという。話者の少女はその後、夕方の浜辺でツブ貝を採っていると、沖から船がやって来るのを見た。船はオシコーイという掛け声とともに櫓を漕いで近づいてきたが、すぐ近くまで来て消えてしまった。五十年前に来岸村出身の北村光から聞いた話だと回答者は書き添えている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。