和食の浜を毎晩ゆく船幽霊の掛け声
どんな伝承か
叔母から聞いた話。叔母は明治十八年に芸西村の和食へ嫁に行き、難しい姑に仕えて夜遅くまで足袋を縫っていた。和食は浜に近く、夜が更けると波の音が耳について寂しかった。そのうちエッサ、エッサと船を漕ぐ声が聞こえてくる。夜更けに船でも通るのかと姑に尋ねると、「ありゃ毎晩の船幽霊がゆきよらあね」と少しも驚かなかった。長年住みついた人には、船幽霊は通るものと決まっていたのである。海で遭難した者の亡霊が、夜、船に乗って海を往来するのだという。行き合うと船は見えず、ただ後ろの方へ声だけがしてゆく。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。