海峡を越えて難を逃れた引揚げ
どんな伝承か
樺太豊原市生まれの女性は体が弱く、祖母が弘法大師を信仰して守ってくれるよう祈っていた。昭和二十年八月十九日、妊娠四か月の彼女は家族より先に引き揚げることになって大泊港へ行ったが、二十一日まで待たされることになる。ソ連軍が来るといけないと誘われ、二十日の昼ごろ会社のポンポン蒸気で出港した。船酔いで幽霊のようになったが、翌二十一日は宗谷海峡の大うねりも酔わずに越え、午後四時に稚内港へ着いた。政府の船を待って二十一日に乗っていれば、留萌沖で沈んだ船とともに海の藻屑となっていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。