雨の夜に平まで乗った消える客
どんな伝承か
群馬県吾妻郡中之条町での話である。今から十年ほど前、高山村でバスの運転手をしていた人が、夜、雨のしょぼしょぼ降る中を傘をさして待っていた祖母のような老女を乗せた。行き先は平だという。平まで来ても降りる様子がないので「降りとくれ」と振り向くと誰もおらず、座っていた所の座席がしっぽりと濡れていた。お化けを乗せたという評判が立ち、三、四カ月ほど過ぎた雨の夜、今度は若い女がやはり平までと言って乗ったが、平に着くと姿が消えて座席の跡が濡れていた。二度も遭ったその運転手はとうとう寝込んでしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。