亡妻に化けた狐を退けた玉薬
どんな伝承か
米沢の家士だという者が、ある日釣りに出て余念なく釣りを垂れていると、後ろの稲叢の陰で何かひそひそと話す者がある。窺うと狐が二匹いて、近日何某の妻が病死するから一慰みしようと言っている。一両日して同僚の妻が果たして死んだ。野辺送りの後も同僚は籠りきりで、顔色も衰えている。訳を問うと、亡妻が生前の姿で夜ごと訪れ、病気を尋ね薬を煎じて与えて帰るが、その間わが身は木石のように動かず後を追えないという。その夜、家士も泊まって見ていたが、やはり身動きできなかった。そこで秘符と称して玉薬を包んだものを竈へ入れておくと、翌夜、亡妻が竈を焚きつけた途端に大きく爆ぜ、亡霊はわっと叫んで掻き消すように失せたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。