板戸を叩いて死を知らせた弟
どんな伝承か
名古屋享栄商業学校の教諭高野貞一郎は、大正十三年一月二十七日午前二時に弟を失った。弟は八事の病院に入院していた。前夜二十六日の十一時頃、大曽根の近くにある高野の家では、高野と夫人が八畳の室で話し、義弟は隣の四畳半で寝ていた。双方の室の間の板戸が鼠でも走るようにコトコトと鳴り、続いてミリッミリッと木の裂ける音がし、最後に掌で打つようなペタペタという音がした。高野は五分ほど、夫人は十五分ほど続いたという。二人は弟が死んだのではないかと言いあった。高野は温度差など物理的な説明を探したが得られず、死者の霊が訪れて叩くタッピングかと考えた。
原典より
* 猫 (216)* 愛犬の死 (218)* 呪いの絵姿 (220)* 大樽滝の白蛇 (222)* 平山婆 (224)* 寄席の没落 (226)* 劇場売店の怪異 (229)* 金の義歯…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。