銭沢で贋金を作った鉄吹き一家
どんな伝承か
奥石(仮名)は山中深くに孤立した村で、どちらの方角の村からも四キロばかり離れ、最高所は標高六〇〇メートルを超す。姓の数が多いうえ、地内に寺院も神社もない。筆者がここで耳にした話でもっとも印象に残ったのは、かつて贋金が作られていたということであった。村には「銭沢」という小地名があり、そこで贋金を作っていたという伝承があり、戦後そこから江戸時代の穴開き銅銭が玉ねぎ大の塊で出土している。慶応年間生まれの祖母ムメは、子供のころ村はずれに住む「鉄吹き」の一家へ豆腐を届け、礼に前掛けいっぱいの穴開き銭をもらった。それが贋金であった。
原典より
奥石は山中深くに孤立した村で、どちらの方角の村からも四キロばかり離れている。—— 村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。