造り酒屋に通う姿なき天狗
どんな伝承か
一戸に大きな造り酒屋があり、今から三十年ほど前、明治になってからのこと、その酒屋へ山から天狗が通ってきた。姿は見えないが、天狗が来ると鶏の群が脅えたように声をあげ、さっと左右に分かれて道をあける。奥の間の仏壇のあたりでごうと風の音がするので、それお出でだと酒や食べ物を供えると、見る見るうちに消えていった。家族みなが見たことで、俳人の鶴齢舎久喜も鶏の分かれるさまや、唐箕がひとりでにかくりかくりと歩くさまを見聞し、水でも浴びせられたように頭の毛が逆立ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。