夏まで氷が残った荒船風穴
どんな伝承か
群馬県下仁田町南野牧字屋敷の荒船風穴は、平成二十六年に富岡製糸場と絹産業遺産群の一つとして世界遺産となった。戦前は日本最大の蚕種保存用の風穴だったらしい。標高八百メートル前後の山中で、明治三十八年に最初の風穴が造られ、はじめ蚕種の台紙十万枚ほどだった収容力は、拡張と二号・三号の増設で百十万枚に達した。地元の男性によれば、風穴は昭和三十年代まで使われ、おかげで年に四度も蚕を飼えた。冬に樋の継ぎ目から滴った水が凍った塊を風穴に入れておくと夏まで解けず、下の市ノ萱で病人が熱を出すと氷を取りに来たという。夏でも壁に氷が張りつく穴もあり、こおりあなとも呼ばれた。
原典より
第10章 戦後も産屋に籠もる女性がいた産屋とは何か産婦の死と「ウブメ」安産祈願と犬卒塔婆渡し舟で出産した女性の話—— 村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。