病人の熱を冷ました荒船風穴の氷
どんな伝承か
群馬県下仁田町南野牧の屋敷集落にある荒船風穴は、明治三十八年に造られた蚕種保存用の風穴で、戦前は国内最大だったらしい。平成二十三年に著者が会った昭和五年生まれの男性によれば、村では沢からトタンの樋で各家に水を引いており、冬には継ぎ目から垂れた水が凍って氷の塊ができた。それを風穴に入れておくと夏になってもあまり解けず、下の市ノ萱あたりで病人が熱を出すと、ここまで氷を取りに来たという。風穴は昭和三十年代まで使われて年に四度も蚕を飼えたといい、こおりあなとも呼ばれた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。