側溝に落ちた娘の血の出ない傷
どんな伝承か
昭和三十六年ごろ、刈羽郡小国町でのこと。夏の午後、ひと休みして家でくつろいでいると、外から大きな泣き声が上がった。慌てて出てみると、娘が田んぼ脇の側溝に渡したセメント板のすきまへ足を落としている。抱きかかえるようにして引き上げたところ、脛の肉が二つに割れて口を開けていた。それでいて血はまったく出ていない。かまいたちに遭ったのだとされた。筆者が集めた九つの事例の一つで、傷が下半身に多く、鎌で切ったように深いのに出血しないという、この現象に共通する特徴をよく示している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
かまいたち談義(大竹信雄・高志路1998年8月号)
『かまいたち談義』は、大竹信雄が著したかまいたちについての民俗学の論考である。北蒲原郡笹神村や柏崎市・刈羽郡小国町で聞き取ったかまいたちにかかった体験九例を挙げ、『北越奇談』や『東遊記』などの記述を引いて、構え太刀説・つむじ風説・真空説・筋肉の急な動きによる生理現象説を整理する。「はじめに」から「おわりに」まで六節に分け、体験例の共通点から境界性を論じ、妖怪かまいたちの性格と越後七不思議との関わりを考える。