初王丸と黒髪の娘の恋歌
どんな伝承か
至徳三年七月のある日、芦名大守の子息初王丸が供を連れて柳津へ参詣に出かけ、鶴沼川を渡って坂下村や栗村を過ぎ、塔寺の坂にさしかかった。道わきの屋敷の縁先では、黒髪の豊かな娘がしきりに髪を洗ってはすいている。初王丸は手綱をひきしめて馬を止め、こんな田舎にこれほどの美人がいるとはと嘆声をもらした。娘は手をとめて顔を上げ、澄んだ瞳で初王丸を見上げて和歌を詠み、初王丸も馬上から返歌をした。帰ってから素性を調べさせると、娘は心清水八幡神社の神官戸ノ内輝光の一人娘「花の前」であった。初王丸はまもなく戸ノ内家の婿養子になったという。
原典より
野も山も濃い緑色に包まれた至徳三年(一三八六)七月のある日芦名大守の子息初王丸は、お供をつれて柳津参詣に出かけた。—— 会津坂下町史 1(民俗編)――伝説(会津坂下町(編・山口弥一郎ほか)・会津坂下町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
会津坂下町史 1(民俗編)――伝説(会津坂下町(編・山口弥一郎ほか)・会津坂下町史)
『会津坂下町史 1(民俗編)――伝説』は、会津坂下町の町史民俗編のうち、第二十章「伝説」を収めたものである。高寺山の黄金千杯、佐原・栗村の水田開発、交通路、空也・徳一、神仏、地名、雨ごい、狐、笑い話・逸話、妖怪変化、部落の起源、人物にまつわる町内の伝説を集める。冒頭で伝説の意義と自然・歴史・信仰の三分類を述べ、主題別の節に分けた各話の末尾に話者と、井関敬嗣・薄嘉明ら執筆者の名を記す。