糸取り車を回していたネズミ
どんな伝承か
井上円了が怪音の正体を追った例のひとつである。宮崎郡田野村の村長によれば、村のある民家の二階、人のいるはずのない場所から毎晩キイキイという音がした。これは妖怪の仕業に違いないと大評判になり、探りに出かけた者はみな音を聞いて怯えて帰ってきた。ある夜、村長が二階の片隅に身を潜めて静かに待っていると、一匹のネズミが現れ、そこに置いてあった糸取り車に乗り、面白そうに車を回しはじめた。その響きこそ妖怪の声とされていたものだった。ネズミを追い払うと音はやみ、糸車を階下へ下ろすと二度と鳴らなくなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。