頓病松と七十五匹の蛇神
どんな伝承か
愛媛県宇摩郡豊岡村長田には、昔トンビョウの一大集団があったという。『西条志』によれば、海辺に沖から船の目当てになる「頓病松」という大松があった。この村には蛇神を持つ家が数多くあり、蛇を瓶に入れて藪や木の下、山の中などに埋め、時々作り初穂などを供えた。供物が遅いと蛇が家に群れ来るという。頓病とは俄に病むの意で、蛇神持ちが遺恨ある者の名を言えば、七十五匹の蛇が鎌首を立てて仇の家に襲い来り、家内の者はたちまち腫れや腹痛に悩まされたと伝える。
原典より
頓病とは俄にやむの義にて、かの蛇神持たるもの、遺恨ある人の名を言て、誰がしに往と咀ば、七十五匹の蛇ども鎌首を持立て、群り群り蜿蜒とのたりくりて、仇ある家に襲来る。—— 日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年))
『日本の憑きもの――俗信は今も生きている』は、石塚尊俊が昭和三十四年に著した研究書である。狐・犬神・蛇などの動物霊が人に憑くという俗信と、それを操るとされる家筋について、全国の伝承と近世以来の文書を集めて論じる。出雲・隠岐・豊後・土佐では筋の家の割合や縁組の偏りを調べ、憑きもの落としの行法や家の神とのつながりまでを七章で追っている。