たらいで流された女房と鳴瀬の渕
どんな伝承か
二百年ほど昔、長雨で水窪川があふれ、村人が逃げ支度をしていると、弁天という所から裸身に黒髪を垂らした娘がたらいに乗り、渦巻く濁流を笑みさえ浮かべて流れ下っていった。それは大工に嫁いで二人の子を育てていた、おたかという美しい女房だった。夫の制止を振り切って洗濯に出た末のことである。行方は知れなかったが、ある夜おたかが夫の夢枕に立ち、鳴瀬の渕で大蛇になっている、鏡を届けてほしいと告げた。翌朝、夫が鏡を持って行くとおたかが現れる。まことの姿を見せよと迫ると、渕はにわかに荒れ狂い、大皿ほどの鱗を持つ大蛇が波間から立ち上がったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。