貝殻を金と誤られた巡礼松
どんな伝承か
阿久根の脇本字瀬之浦的場に巡礼松がある。承応・明暦の頃というから、今からおよそ二百六十年前のこと、美濃国の加久藤四右衛門の男が長寿祈願のため西国巡礼を思い立ち、十一歳で故郷を旅立った。十三歳のとき瀬之浦の伊勢神社に参拝し、道中の赤瀬川海岸で波に磨かれた貝殻を多く拾ってきて、鳥居前の大石でもてあそんでいた。これを多くの金と誤解した土地の郷士が、同社に泊まっていたこの巡礼を殺害して埋めてしまう。夢の知らせによって尋ねて来た母が、記念にその墓へ植えた松が、のちに稀な大木となり、世に巡礼松と称されるようになったという。
原典より
今より凡二百六十年前承応、明暦の頃にやありけん美濃国加久藤四右衛門の男某長寿祈願の為め西国巡礼を企て十一歳の時古郷を旅出し十三歳の時瀬之浦伊勢神社に参拝し途中赤瀬川海岸より波に磨ける多くの貝殻を拾来り鳥居前の大石にて之を…—— 日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。