業平が詠んだ野寺の鐘の行方
どんな伝承か
新座市野寺には古い梵鐘があったという伝説が残る。満行寺の寺伝によれば、天長三年に在原業平が、武蔵野の野寺の鐘の声を聞けば遠くの人も近くの人も道を急ぐ、と詠んだという。しかし文明のころには鐘はすでに無く、『廻国雑記』は、昔国の乱れのために土中に埋められ、そのまま掘り出されなかったと記している。鐘が埋まっている場所を鐘が渕と呼ぶが、今は池の形もなく田へ引く水が流れるだけである。火災の際に池へ投げ入れたまま失われたとも、盗賊が盗んで見とがめられ、池へ捨てたまま引き揚げられずにいるとも伝えられる。
原典より
野寺には古く梵鐘があったとの伝説が残っている。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。