床下からすすり泣く空き別荘の夫人
どんな伝承か
画家の堀文子から聞いた話。旧軽井沢から碓氷峠へ向かう山道を三十分ほど歩いた雑木林の奥に、軒の朽ちかけた洋館があった。数年間人の住んだ形跡がなく、錆びついた鍵を開けると室内には蜘蛛の巣が張っていた。管理人の老人によれば、そこは数年前までメレというフランス人の別荘で、病妻を看取ったメレ氏が帰国した後、空き家になったという。貸別荘として借り主が現れるが、三日と住まずに出ていく。床下から女のすすり泣く声が聞こえるためで、管理人の老人もその声を聞いたという。堀は泣き声こそ聞かなかったが、この別荘で一人約一か月を過ごしたと語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。