根子岳の猫屋敷から逃げた商人
どんな伝承か
豊後直入郡口村のびんつけ商人が阿蘇の猫岳(根子岳)の麓を通りかかった際、俄かに日が暮れて大きな家に迷い込んだ。そこで出会った女は、実は五年前に姿を消した隣家の飼い猫で、「ここで風呂に入り物を食べれば毛が生えて猫になる」と告げて商人を逃がした。追ってきた女たちが投げた桶の湯が耳の下とすねに少しかかり、その部分にだけ猫の毛が生えたという。猫岳には数百匹もの猫が棲んでいると伝えられている。
原典より
もし此所にて居風呂に入り食物を受る人は體中に毛生て猫の形こなろ。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。