藁になった河童の腕とトノサンの約束
どんな伝承か
肥後の飽託郡石原村には、トノサンと呼ばれる石原叶之助という領主がいた。ある年、村を流れる白川で領内の子どもが河童に引かれた。怒ったトノサンはすぐ川へ飛び込んで河童と組み合い、ついに片腕を引き抜いて帰ったが、見るとそれはただの藁一本だった。その晩、腕を取られた河童が返してほしいと願い出た。トノサンが、領内の人を取らないと約束するなら今度だけ許すと言うと、河童は固く誓って腕を返してもらった。それから他の村では被害が出ても石原村だけは無事で、夏の土用の三日目には酒や胡瓜、饂飩を供えて河童を祀る河祭が続いているという。
原典より
夏の土用の三日目に河祭こ稱して、酒、胡瓜、饂飩なごを供へて河童を祀るの風が今でもこの村について行はれて居る。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。