屋根から転げ落ちた偽の御降り
どんな伝承か
今夜あたり家のうちへ御祓でも降ればよいのに、と言う亭主をたしなめ、上さんは亭主を先に寝かしつけ、し残りの繭を糸に繰っていた。と、どどっ、ばたっと物の落ちた音がした。驚いて窓の障子を開けると、暗闇の中を腰のあたりをさすりさすり背戸の方へ逃げて行く黒い影が見えた。翌る朝、屋根の上に白い御幣が横倒しになって風に揺れていた。亭主は御降りだと喜んだが、上さんは、昨夜誰かが立てに来て罰が当たって転げ落ちたのだろうと言い、物干竿で払い落としてどこかへ隠してしまったという。
原典より
「なあ、今夜ぐらうのうちイ御祓かなんぞ降つたらええんになあ。—— 阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・1931年(昭和6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・1931年(昭和6年))
『阿波えゝぢやないか』は、山口吉一が一九三一年に著した、幕末の「ええぢゃないか」騒動の記録である。慶応三年の暮れに阿波で起きたお札降りと踊りの騒ぎを、県内の古老五十余人からの聞き書きと郡村史誌などの記録によって、起因・神異・服装・歌謡・禁忌などの面からたどる。徳島日々新報への連載をまとめたもので、概観篇・詳述篇・挿話篇・補遺篇から成り、鳥居龍蔵の序、話者の古老の一覧、太田明の「御下り踊私考」を付す。