空を暗くした雀の大合戦
どんな伝承か
明治九年十二月十二日の正午から、阿波国名西郡上山村ではにわかに空が曇り、日蝕のように暗くなった。大空高く夥しい鳥の啼き叫ぶ声が聞こえ、激しい羽ばたきが空一杯に広がったので、村人が驚いて仰ぎ見ると、いつどこから集まったのか幾十万という小雀が必死に合戦をしていた。空が暗くなったのはその大軍が日の光を遮ったためであった。雀は大将に率いられるように隊伍を整え、進退しながら戦い、追われて羽をむしられ落ちるものもあった。日が没して大軍は西と東へ飛び去ったが、附近の山谷には手負いの雀が枯草を積んだように落ち斃れ、村人は数百串の雀焼きを蓄えて喜んだという。
原典より
その戦いの有様は、あたかも大将があって、その部下の軍勢を率いるように、いずれも隊伍をととのえ、列を定め縦横に進退して、戦うのであった。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。