雪駄や行灯が踊り出す観音堂境内の家
どんな伝承か
浅草観音堂の境内にある大橋某の家で、二十九日頃から奇怪なことが続いた。雪駄がひとりでに飛び上がり、飯櫃や行灯が踊るように動いて天井へ上がっていく。屋根に小石が降り、一陣の風とともに砂が降りそそぐこともある。家人は怯えて途方に暮れた。折から同じ境内で興行していた西洋曲馬師スーリエという外国人が噂を聞いて訪れ、怪異が起こると短銃を二発撃った。すると台所の棚にあった擂鉢が飛び降りて足元で割れ、騒ぎは一向に鎮まらないので、驚いて逃げ帰ったという。のちに家の小女の夢枕に古狸が現れ、近ごろ開けてきて棲む場所がなくなったので驚かせているのだ、小さな祠を建ててくれれば静まると告げた。祠を建てると怪異は絶えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。