七日七夜の逆立ちを願かけた魚屋
どんな伝承か
インドのバラモン教徒のような逆立ちの難行を思い立った男がいた。気が触れたのではなく本人は真面目である。浅草に住む魚屋の六助という信心深い男で、どんな願をかけたのかは分からないが、七日七夜のあいだ逆立ちを続けると決めた。邪魔をされては困るので裏表の戸を内から締め切り、座敷の四方に注連縄を張り、斎戒沐浴して白い浴衣を行衣がわりにまとい、座敷の真ん中で逆立ちを始めた。だが目はくらみ腕はしびれ、半時間ももたずに倒れる。起きては倒れを繰り返す物音に近所は相撲でも始めたかと訝しみ、家主が戸の隙間から覗いて仰天した。押し入って叱ると六助は願の邪魔をするなと怒ったが、皆に諭されてようやく中止したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。