鬼の腕に絞め殺された元侍
どんな伝承か
明治に入ったばかりのころ、浅草馬道に田宮義和という男が住んでいた。維新前は侍だったというが、赤茶けた片腕を一本持っていて、これを鬼の腕と称した。銭湯へその腕を持ち込み、手拭いを握らせて自分の体や顔を洗わせる。家を訪ねた者の話では、肩や腰を揉ませながら気持ちよさそうに昼寝をしていたそうだ。どうやって手に入れたのかを聞いた者はいない。ある年の冬、御用聞きが訪ねると、義和はその腕に首を絞められて息絶えていた。検視の役人が引き離そうとしても離れず、そのまま埋めたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。