空を踏んで飛んだ仙人たちの記録
どんな伝承か
人が空を飛び、遠方へ瞬時に移る例を集めた条である。応長のころ上野国金洞山の岩窟にこもった長清道士は、山麓の農家で柿の木に登り、梢から空を踏んで山へ帰った。明和年間、讃岐高松から江戸へ奉公に出て目黒の下屋敷を守っていた彦次郎は、坊主姿の男に抱えられ、目を閉じているうちに数時間で故郷の裏庭へ下ろされた。文化七年七月二十四日には、浅草南馬道竹門の傍らへ裸の男が降り、京都の伊藤安次郎で、愛宕山で老僧に誘われた後の記憶がないと語った。明治二十六年には麻布谷町で小林という仙術家が米国人の前で技を見せた。
原典より
例一 長清道士應長年代に、上野國の金洞山の巖窟を住家として、仙道修行に入った長清道士と云ふは、以前は北條氏政の家臣であつて、仙道を修め、神通力を得るやうになったのである。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。