鳶の羽で祇園会へ飛んだ和尚
どんな伝承か
文禄年間、安芸国西条町の禅寺に名高い東堂和尚がいた。どこからともなく現れた十六、七歳の美しい小僧が毎日のように法問に通い、六月七日の朝、京の祇園会を見に行こうと誘った。小僧が袂から鳶の羽を一枚出して和尚を乗せると、二人は空へ舞い上がり、京の愛宕山の杉の枝で酒食をふるまわれたのち、祇園社の楼門の上に降り立った。小僧が屋根の苔や礫を群衆に投げると、見物の武士どうしが斬り合いを始めて大騒ぎになった。和尚がいさめると、小僧は手招きして前田玄以の巡回と思わせ、騒ぎを鎮めた。四条の大家の座敷で行列を見終え、夕暮れには鳶の羽で西条へ戻ったという。
原典より
和尚は少や不思議に思つて返事をしなかったら、遠路のことで覚束なく思ひ給ふも尤であるとて、鳶の翼を一枚袂から取出して、是に乗り給へ不思議の飛行力があると言って促したので、…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。