嵐の夜、柔らかな鞄に腰かける男
どんな伝承か
歌手の岸洋子が語った、八年ほど前の初夏の体験。巡業で九州の小林を訪れ、旅館に泊まった夜は嵐で、雨戸ががたがたと鳴り風がうなって寝苦しかった。小さな電灯をつけて眠っていると、ふと目が覚め、スーツケースに男が腰かけているのが見えた。男はうつむいていて、頭が無いようにも見えたが、あるのか無いのかは分からない。そのスーツケースはボストンバッグのように柔らかく、人が座れるはずのない物だった。恐ろしさに声も出なかった。これが始まりで、その後もいろいろなことがあったが、病気がすっかり治ってからは何も起きていないという。
原典より
ふと目をさますとスーツケースに男の人が腰をかけているんです。—— お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。