サタノ岬沖でクジラと争った怪物
どんな伝承か
一八七九年四月五日の昼前、三菱汽船の紀州丸がサタノ岬の沖を進んでいたとき、クジラと海の怪物が激しく争っているのを目撃したという。両者とも海に潜ったきり姿を見せなかったので、どちらが勝ったかははっきりしないが、著者は、たぶん怪物が勝ち、クジラは海ヘビの餌食になったのだろうと見ている。当時の日本はまだ航海の技術が未熟で、日本の船籍の汽船でも、船長や航海士といった上級の船員はみな外国人だった。紀州丸の場合も同じで、この格闘の話はもっぱらその上級船員の報告によるものだが、乗組員には日本人も何人かいたはずだから、海ヘビを目にした日本人がいてもおかしくないという。
原典より
一八七九年四月五日の朝もたけなわなころ、三菱汽船「紀州丸」が、サタノ岬を航行中、クジラと海の怪獣の猛烈な格闘を目撃したという。—— 海の奇談(庄司浅水・海洋・怪異・1961年(昭和36年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
海の奇談(庄司浅水・海洋・怪異・1961年(昭和36年))
『海の奇談』は、庄司浅水が一九六一年に著した、海にまつわる珍しい話の読み物である。古代からの海難と海の伝説、シーラカンスや海ヘビなど海の怪獣の話に加え、「ベッツィ」号の海賊事件、船上の反乱や怪死、グラーフ・シュペー号の最期、漂流や沈没船のなぞなど、欧米を中心とする海の事件の記録を扱う。全十五章からなり、終章のタイタニック号遭難には唯一の日本人乗客細野正文をめぐる一篇を加え、巻末にあとがきと追記を置く。