人に聞こえずテープに残った鉦の音
どんな伝承か
亡くなったおすがおばさんの霊が鳴らすらしい鉦の音は、毎晩同じ時刻に同じ調子で続いた。家族を起こして一緒に聞かせても、聞こえる者と聞こえない者があり、語り手は自分だけの錯覚かと考えるようになった。ところが幾日か後、その仏壇のある部屋で心霊座談会が開かれ、徳川夢声、中河与一、小田秀人、橋本健らが集まった。速記のために回していたテープレコーダーを後で調べると、あの鉦の音がぼんやり入っていた。人には聞こえず、テープにだけ残っていたのである。盆の中日には、おばさんは婿の口を借りて残された夫を託した。
原典より
時刻も音の調子も寸分変らない。—— 私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。