焼け跡の社殿で祈っていた少年
どんな伝承か
復員後の四月、東京に着いた「私」は靖国神社へ参拝した。焼け跡のような境内には掃除も行き届かず、アメリカ兵の警衛が退屈そうに立ち、参拝者もまばらだった。本殿で目を閉じ、戦没した友人たちの面影を追おうとしたが叶わず、ふと後ろを見ると十六、七歳ほどの少年が一心に祈っていた。境内を出て省線電車に乗ると、幾十万の戦死者の霊は雲も呼ばず嵐も起こさず静かに眠っているのだと思い至り、生命の尊さを噛みしめた。
原典より
四月の初め、わたしは東京へ来た。—— 私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。