通運丸の客が天狗顔になった湖坊主の夜
どんな伝承か
明治三十年ごろ、土浦を出た蒸気船の通運丸に三十人の客が乗り込み、にぎやかに酒盛りをしていた。最終便で霞ヶ浦は真っ暗だった。見回りの船員が、急に静まり返った船室をのぞくと、三十人が一斉に振り向き、どの顔も天狗になっていた。青ざめて仲間を呼んだが、ほかの者がのぞいたときには皆けろりとして酒を飲んでいる。途中の木原で三十人が降りると、いつの間にか子どもが一人乗っていて、現れたり消えたりしたあげく、ついに消えたきりになった。仲間には頭がおかしいと笑われたが、積荷のワカサギがすっかり無くなっているのを見て、はじめて湖坊主の仕業だと言い合ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。