オヒンズル様へ向かう消える客
どんな伝承か
山梨県南都留郡秋山村では、深夜に帰りぎわのタクシーを止め、オヒンズル様まで行ってくれと頼む客が毎晩出るという噂があった。オヒンズル様とは武田家の姫君を祀るという神社である。運転手が仕方なく乗せて走り、目的地に着いて「つきましたよ」と声をかけると、後ろに客の姿はなく、シートだけが濡れている。回答者の中本勝則がこの話を聞いたのは、まだ発掘が行われていた頃で、八年ほど前のことだという。秋山ではたいそう有名な話であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。