上等兵の名を借りて持ち込んだ寿司
どんな伝承か
昭和十五年ごろ、名古屋歩兵第六連隊補充隊にいた人の話である。外出先で食べ足りず、寿司を折詰にしてたくさん抱えて堂々と帰営した。衛兵には、ある上等兵殿から衛兵司令殿へ渡すよう預かったと言って通してもらい、そのまま衛兵所に置いて帰る。三十分ほどすると当の上等兵が、誰がこんな物を預けたと折詰を持って怒鳴り込んでくる。そこで自分でありますと名乗り、名前を借りたお礼にどうぞと言うと、上等兵は古兵を集め、お前も食えと皆で平らげた。以後も果物などで同じ手を使ったといい、規律の厳しい軍隊にも抜け道はいくらでもあった。
原典より
昭和二十年二月十三日に飛行予科練習生として入隊した。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。