敵陣へ届けた大福餅
どんな伝承か
西南戦争が始まった明治十年三月、官軍は田原坂近くの横平山に陣を敷いたが、敵陣までわずか二十メートルしか離れておらず、撃ち合いと睨み合いの日が続いた。そこへ後方の兵站から大福餅が届き、味方は大いに沸いた。敵に見せびらかすと向こうも欲しそうにするので、山田という若い兵が二、三十個を抱えて敵陣へ届けたところ、大変な歓待を受けて酒まで振る舞われた。それから敵味方に妙な親しみが生まれ、山麓で両軍が入り乱れて斬り合う間も、山上の者たちは敵味方並んで見物していたと語られる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。