土の詰まった鞘を直した戦友
どんな伝承か
昭和十九年三月十四日、三か月の訓練を受けて南大東島に着いた。敵の上陸必至との想定で砲台を作り、兵舎から砲台まで五十センチ幅に掘った穴道を往来して訓練にそなえた。ある日、着け剣の号令で銃に剣をつけ、空になった鞘には草で栓をしていったが、いつのまにか栓は抜け鞘は土に埋まってしまった。上御一人から預かった兵器を失えば、軽くても重営倉である。つきつめた気持ちになったとき、九州生まれで元は鉄工所で働いていた同年兵が鞘を直してくれたばかりか、栓まで作ってくれた。その男を神とも仏とも思い、別れて三十六年たっても忘れないという。
原典より
○青森県、弘前東部第五十七部隊。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。