秋葉山の天狗に連れ去られた藩医の弟子
どんな伝承か
慶応三年、名古屋の伝馬町に住む尾張藩医柳田泰治のもとで修業していた十七歳の沢井才一郎は、夢のお告げに従って土蔵の屋根に登り、秋葉大権現の札を見つけた。家では吉兆と喜んで注連縄を張ったが、風もないのに青竹が折れた夜に才一郎が消え、再び竹が折れたときには注連縄に引っかかっていた。正気に返ると秋葉さまへ行ってきたと語り、持ち帰った札を配った。十二月一日には皆の見守る屋根の上から音もなく姿を消し、翌朝、邸内の秋葉社の前に無事を知らせる手紙が置かれていた。三か月半後に戻った彼は、天狗の眷族に従って伏見や鳥羽の戦場で兵を救っていたと話し、明治元年十二月に眠るように世を去ったという。
原典より
そして、地上に立つ泰治たちが真言を唱えて見まもるうちに、ふっと音もなく才一郎の姿が消えてしまった。—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が新聞・雑誌に寄せた心霊研究の随筆や小論に手を加えて集めた心霊研究文庫の第三冊で、はしがきは一九七八年十一月の日付である。SPRの成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンを論じる文章のほか、土井晩翠・河上肇・福来友吉の挿話、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などを収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、多くの篇に初出の誌名と年月を添える。