狼の化け物
どんな伝承か
飛脚は前夜、狼の群れと戦って二十余匹を斬り伏せた。その最中に「佐喜の浜の鍛冶の母を呼うで来い」という怪しい言葉を聞いていた。朝になって野根村へ下り、定宿で昼飯を食いながら、佐喜の浜に鍛冶屋があるかと尋ねると、庄という鍛冶屋があり、老爺は死んだが老婆はまだぴんぴんしていて、息子の嫁をいじめる村の通り者だという。海岸を歩いて佐喜の浜へ向かう途中に会った若い漁師も「庄鍛冶の老婆は達者すぎて庄が困っておる」と笑った。飛脚は、鍛冶の母とは狼の化けた者ではないかと疑い、額の傷の有無を確かめようとした。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。