トカラのジャングルに住むもの
どんな伝承か
九州と奄美大島の間に点々と並ぶトカラの島々は、四、五メートルにもなる笹のような竹で埋め尽くされている。暗い藪を押し分けて進むと、足のない灰褐色のトカゲのような生き物が次々に跳ね出した。下草の葉には長さ七、八センチほどの、羽のない平たい茶色の虫がはりつき、こちらをじっとうかがっていた。つかもうと手を伸ばすと、いきなり横っ跳びに飛びかかってきて枯れ葉の下へ消えた。著者は棒でそのあたりを必死に掘り返したが、とうとう見つけられなかった。著者の全身に立った鳥肌は二十分たっても引かず、寒気に震えながら藪を抜けた。地獄から来たようなその虫に、著者は「黄泉のオサ」という名を付けたという。
原典より
こちらもジッと見ていたら、虫酸が走るようないやらしい感じがその虫からヒシヒシとおしよせて来て、背すじがッーッと寒くなって来た。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。