登山者の来ない一迫川源流の秘境
どんな伝承か
一迫川という川がどこにあるかは、地理にくわしい山屋でも知らないほうが多いという。秋田県の皆瀬川から宮城県の一迫川へ抜ける一本の小径は、鬼首峠と栗駒山との間のただ一つの通路で、近くの深い山々には登山路がまったくなく、登山者の姿も見られない。この道は近ごろ里人もろくに通らないらしく、陽のよくあたるところでは道であった部分に隙間すらなくなり、足の裏で地面の堅さを感知して進むほかない太古の状態に復元している。栗駒山の西山腹には、寒帯ジャングルにびっしり塞がれた中に、筆者が西方浄土と名づけたかなりの広さの湿原がある。ひどい雨の中を藪分けして進んだが、湿原の東方十五メートル以内を素通りしてしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・昭和(戦後))
西丸震哉『山とお化けと自然界』を篇単位で収録。完全装備で岩小屋前を通過する遭難者の幽霊目撃、木曾御岳の人魂たち、カラステングがタコを食う、亡き兄との交信やテレパシー(死者との通信)、幽霊の仮説・怪談といった山岳怪異譚を軸に、呪い殺しの実験・雨やみの術・日蝕と雨やみの術などの呪術、山の昆虫・メスネコの生涯・ヤマネとムササビ・ミミズク等の自然観察、酒・山旅・会津の秘境/栗駒山密林などの紀行随想を収める。