沖津沖で髪を焼いて龍の黒雲を退ける
どんな伝承か
ある人が江戸から船で上ったとき、東海道の沖津の沖を過ぎるころ、一むらの黒雲が虚空からその船をさして飛んできた。船頭は大いに驚き、これは龍がこの船を巻き上げようとするのだ、急いで髪を切って焼けと言った。船中の人々が残らず頭髪を切って火に焼いたところ、臭気が空に上り、かの黒雲はたちまち散り失せたという。『東遊記』が載せる一条で、越中・越後の海でも夏に黒雲が虚空から下りて海の潮が逆巻き上がり、その雲をよく見ると龍の尾や全形が見えると語られている。
原典より
船頭大に驚き是は龍の此船を卷上けんこするなり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。