神泉苑で龍に遭い病んだ下僕
どんな伝承か
内裏で夏の暑さをしのごうと、滝口の一人が従者の男を酒肴の使いに出した。十町ほど行ったころ空が陰って夕立となり、雨がやんでも男は日が暮れても戻らない。翌朝、滝口が男の家を訪ねると、男は死んだようになって臥していた。医師の忠明に相談すると、灰を多く集めてその中に男を埋めよという。教えのとおりにして一、二時ほどして掻き開くと、男は正気に返った。男は、神泉苑の西面で俄に雷電し、苑の内が暗くなって、その暗がりの中に金色の手が見えたところまでは覚えているが、その後は何も覚えていないと語った。忠明は、龍の体を見て病みついたのだからその治法よりほかはないと笑ったという。
原典より
然ればこそ人の龍の體を見て、病付ぬるには其治より外の事なしこ云ければ—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。