鐘の音が絶えたおぎょう塚の行者
どんな伝承か
昔、戸室の松原の里に、杖をつき数珠を手に笠をかぶった白装束の行者が訪れ、ある家に一夜の宿を求めた。行者はその晩から足腰の立たない重い病にかかり、手厚い看病もむなしく一週間たっても良くならなかった。やがて行者は近所の人を枕元に集め、もう助からないので大きな棺を作り、竹筒で息抜きを付けて前の土手のあたりに埋めてほしいと頼んだ。人々は断ったが、行者が一生の願いだと重ねて頼むので、いまおぎょう塚の碑の立つ所に深い穴を掘って棺を埋めた。鐘の音が止んだら死んだものとして線香を一本あげてほしい、というのが行者の願いだった。土の中からは竹筒を通して鐘の音と経の声が聞こえていたが、一週間で途絶えた。里人はそこに祠を建てておぎょう様と呼び、行者の数珠は柴崎家に伝わるという。おぎょう様は耳だれの神とされ、治ると竹筒に酒を入れて供えた。ひところは奉納の竹筒が数え切れないほど並び、旗も絶えなかった。供えた酒を耳に付ければ治るといって、もらいに来る人もいたという。
原典より
土の中から、タカヅッポをとおして、チン、チンという鐘の音と、お経の声が聞こえはじめました。—— 騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪(騎西町(編)・騎西町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪(騎西町(編)・騎西町史)
『騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪』は、騎西町が編んだ町史民俗編のうち、方言一覧の末尾と第9章「伝説・昔話」を収めたものである。調査協力委員や地域の老人クラブを通じて集めた二十八話で、久伊豆明神(玉敷神社)の獅子、雷電社の雨乞い、和尚の説話、いぼとり地蔵、入定塚、念仏橋、狐やムジナに化かされた話などを、話者名や郷土誌の出典を添えて載せる。章のはじめに伝説と昔話の違いを述べ、神社・寺堂・塚と橋・行事のいわれ・妖怪談の五節に分ける。